夜光塗料の変遷【ラジウム・トリチウム・ルミノバ】 | ユニバーサルバリュー中野店ブログ

2021/07/30

夜光塗料の変遷【ラジウム・トリチウム・ルミノバ】

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暗い中で時計の視認性を確保するため、針やインデックスに塗布される夜光塗料。 使われる塗料は時代によって変化しますが、だいたいどの時計メーカーもラジウム→トリチウム→ルミノバ、という変遷をたどります。 スピードマスターにおいてもそれは例外ではありません。

ラジウム

放射性物質であるラジウムは、時計業界では1960年代頃まで夜光塗料として使用されていました。
ラジウムと蛍光物質を混ぜて文字盤や針に塗布すると、ラジウムから発せられる放射線に蛍光物質が反応し発光する仕組みです。放射性物質とは言えとても弱い放射線なので使用者には問題はないのですが、当時の時計製造工場の従業員達に健康被害が続出しラジウムの使用をやめる時計メーカーが増え、1967年には国際原子力機関がラジウムの時計への使用を規制したことによりそれ以降は使用されなくなりました。

ある時計の夜光塗料がラジウムか否かを見分ける方法は簡単です。ラジウムの半減期は1602年。オリジナルのラジウム針や文字盤が付いている時計を放射線測定器で測れば必ず反応します。 ラジウム塗料にブラックライトを照射すると、劣化の程度にもよりますが発光しライトを消すと急速に光を失うという反応をするはずです。

トリチウム

ラジウムに変わって夜光塗料として使用されたのがトリチウムです。
ほとんどの時計メーカーで1990年代まで使用され、オメガでは1997年頃まで使用されています。 トリチウムも放射性物質ですが弱い放射線源であり、発せられる放射線は空気中で5mm程度しか進むことが出来ないためケースや風防を通り抜けて人体へ影響を及ぼすことはありません。
オメガのトリチウム夜光 文字盤の6時位置に記された「T SWISS MADE T」がトリチウムを使用していることを表す。

トリチウムもラジウムも、それ自体が光るわけではなく蛍光体を光らせるためのエネルギー源になっているに過ぎません。 特にトリチウムは比較的弱い放射線源なので、蛍光体の劣化もゆっくりと進みます。
ラジウムの場合は蛍光体が劣化してしまいブラックライトを照射しても発光しないことがことがありえますが、トリチウムは古い針や文字盤でもブラックライトを照射するとしっかり光り、ラジウムと同様にライトを消すと急速に光を失います。

ルミノバ

現在主流となっている夜光塗料は日本の根本特殊化学株式会社が開発した「N夜光・ルミノーバ」
放射性物質を全く含まない夜光塗料で、トリチウムをエネルギー源として蛍光塗料を発行させていた従来のものと違い外部の光を貯めて発行する蓄光塗料です。 より明るく、発光時間も長い優れた新素材。 1993年に開発され、まずは日本の時計に採用されます。1998年にはスイスにルミノバAGを設立し瞬く間に世界に広がりました。 オメガでもルミノバが現行で使用されています。

トリチウム夜光の人気上昇

トリチウム夜光が使用された時計の人気が上昇したのは2010年代の後半からではないでしょうか。 もちろんそれ以前からビンテージ市場では、オリジナル性の確認という意味では重要なポイントではありましたが、同じモデルでも夜光塗料がトリチウムというだけで値段が高いという状況が顕著に表れてきたのはかなり最近です。
スピードマスターにおいてはトリチウムが使用されていたのは1997年頃まで。スピードマスター プロフェッショナルの第6世代、3570.50が発売された直後です。よって第6世代のスピードマスターは、極初期に生産されたもののみトリチウムが使用されています。 トリチウム夜光の3570.50 変色し茶色く焼けたような色が良い雰囲気を出すのもトリチウムの特徴。